大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(ネ)4444号 判決 1997年3月26日

大阪府東大阪市菱江三丁目一五番二〇号

控訴人(附帯被控訴人、以下、単に「控訴人」という。)

株式会社コニック

右代表者代表取締役

大川雄史

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

岩坪哲

田辺保雄

南聡

冨田浩也

神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地

被控訴人(附帯控訴人、以下、単に「被控訴人」という。)

株式会社アマダ

右代表者代表取締役

上田信之

神奈川県伊勢原市高森八〇六番地

被控訴人(附帯控訴人、以下、単に「被控訴人」という。)

株式会社アマダメトレックス

右代表者代表取締役

大村豊

右両名訴訟代理人弁護士

長谷川純

右輔佐人弁理士

三好秀和

岩崎幸邦

主文

控訴人の本件控訴を棄却する。

被控訴人らの本件附帯控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人の控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分(ただし、第一項及び第二項を除く。)を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  被控訴人らは、控訴人に対し、各自、金二三九万八五〇〇円及びこれに対する平成六年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する被控訴人らの答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  被控訴人らの附帯控訴の趣旨

1  主位的損害額の主張に基づく場合

(一) 原判決中、第三項及び第四項を次のとおり変更する。

(二) 控訴人は、被控訴人株式会社アマダに対し、金二九一二万六〇四三円及びこれに対する平成四年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 控訴人は、被控訴人らそれぞれに対し、各金二一九万五三七五円及びこれに対する平成六年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  予備的損害額の主張に基づく場合

(一) 原判決中、第三項及び第四項を次のとおり変更する。

(二) 控訴人は、被控訴人株式会社アマダに対し、金二六一万八八一八円及び内金二六一万一三〇二円に対する平成四年一月一七日から、内金七五一六円に対する平成六年七月一三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 控訴人は、被控訴人らそれぞれに対し、各金一五万七一八八円及びこれに対する平成六年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  附帯控訴の趣旨に対する控訴人の答弁

1  本件附帯控訴を棄却する。

2  附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、以下に訂正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由 第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六丁裏四行目の「いずれも」を「十字溝バーリング金型は」と改める。

二  同七丁表一二行目末尾に続けて、「この製品は、本件考案の技術的範囲に属する十字溝下向バーリング金型(検乙一)である。」を、同丁裏九行目末尾に続けて、「この製品は、一本溝の下向バーリング金型である。」を、各加える。

三  同七丁裏末行の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「このうち、<4>が本件考案の技術的範囲に属する十字溝下向バーリング金型である。<1>、<3>(検乙四)、<7>(検乙二)、<8>が一本溝の下向バーリング金型であり、その余の<2>、<5>、<6>、<9>、<10>は、そのいずれにも該当しないものである。」

四  同一二丁裏末行の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「(三) 控訴人の反論

(1)  本件考案について、被控訴人らは、NCタレットパンチプレスで下向バーリングを行うため、まず、三本ピン型が考案され、さらにその難点を解決するため、本件考案の十字溝の下向バーリング金型が開発された旨主張する。

しかし、当時、本件考案の十字溝下向バーリング金型の製作に先立って、控訴人が前示のように一本溝(一文字)の下向バーリング金型を製作し、納入していたのであって、右一本溝の下向バーリング金型は、設計思想において、十字溝下向バーリング金型と本質的に異なるところはなく、その延長線上において容易に導きうる製品なのである。また、顧客の操作においても、金型の基礎編をマスターしておれば、十分操作が可能であって、特別のソフトを必要としないものである。ただ、一本溝から十字溝への製作経過で、11/4インチサイズの十字溝については、当時技術的に難があって、2インチサイズのものから着手したのである。

(2)  本件考案と同様の十字溝下向バーリング金型の製作原図があるに越したことはないが、これを完成したのは、昭和五二年初め頃であり、それから一四年も経過した後の本訴提起時に、製作原図が存在しなかったとしても、必ずしも不自然ではない。」

五  同一八丁裏末行目から同一九丁表一一行目までを、次のとおり改める。

「昭和六一年一〇月一四日~平成三年八月二五日

金型の種類 数量

ロングセットアセンブリー 四六九

ダイアセンブリー 一五三

ショートセットアセンブリー 四八

ダイアセンブリー 一〇四

平成三年八月二六日~平成五年九月三〇日

金型の種類 数量

ロングセットアセンブリー 一〇五

ダイアセンブリー 五三

ショートセットアセンブリー 八

ダイアセンブリー 一七」

六  同一九丁裏七行目から同二〇丁表七行目までを、次のとおり改める。

「昭和六一年一〇月一四日~平成三年八月二五日

金型の種類 売上額

ロングセットアセンブリー 一七三五万三〇〇〇円

ダイアセンブリー 二六七万七五〇〇円

ショートセットアセンブリー 一五八万四〇〇〇円

ダイアセンブリー 一八二万〇〇〇〇円

(小計)二三四三万四五〇〇円

平成三年八月二六日~平成五年九月三〇日

金型の種類 売上額

ロングセットアセンブリー 三八八万五〇〇〇円

ダイアセンブリー 九二万七五〇〇円

ショートセットアセンブリー 二六万四〇〇〇円

ダイアセンブリー 二九万七五〇〇円

(小計) 五三七万四〇〇〇円」

七  同二〇丁表八行目から同二一丁表三行目までを、次のとおり改める。

「<4> 控訴人の利益による被控訴人らの損害の推定

右によれば、昭和六一年一〇月一四日から平成五年九月三〇日までの本件金型の売上額の合計は、二八八〇万八五〇〇円となる。

また、本件金型の販売による控訴人の販売利益は、本判決添付別紙(1)の販売利益欄記載のとおりである。これは、右の売上額に、控訴人の営業利益率(前記被控訴人アマダメトレックスの経常利益率の九割として計算したもの)を乗じたものである。

以上の結果、昭和六一年一〇月一四日から平成五年九月三〇日まで、控訴人が本件金型を販売したことによる営業利益は、合計二九三万三一九五円であると推定されるところ、右控訴人の利益は、実用新案法二九条一項により、実用新案権者の損害と推定され、被控訴人らは、右期間の間、右金額の損害を被ったと推定される。

したがって、控訴人は、被控訴人アマダが単独で本件実用新案権者であった昭和六一年一〇月一四日から平成三年八月二五日までの間の損害として、被控訴人アマダに対し、二六一万八八一八円の損害賠償義務を負担し、平成三年八月二六日から平成五年九月三〇日までの損害として、被控訴人両名に対し、合計三一万四三七七円(各一五万七一八八円)の損害賠償義務を負担する。

<5> 実施料率による被控訴人らの損害の推定

金属加工機械、その付属品、その工具の実施料率の平均値が調査されており、これによると、金属加工機械及びその付属品の実施料率は、売上高の概ね五パーセントが一般的であるから、本件金型の実施料率も五パーセントが相当である。

仮に、<4>の損害の推定が認められないとしても、昭和六一年一〇月一四日から平成五年九月三〇日までの本件金型の売上額の合計二八八〇万八五〇〇円に実施料率五パーセントを乗じた額である一四四万〇四二五円が、実用新案法二九条二項により被控訴人らの被った損害と推定される。

したがって、控訴人は、被控訴人アマダが単独で本件実用新案権者であった昭和六一年一〇月一四日から平成三年八月二五日までの間の損害として、被控訴人アマダに対し、一一七万一七二五円の損害賠償義務を負担し、平成三年八月二六日から平成五年九月三〇日までの損害として、被控訴人両名に対し、合計二六万八七〇〇円(各一三万四三五〇円)の損害賠償義務を負担する。

<6> よって、被控訴人アマダは、控訴人に対し、<4>記載の二六一万八八一八円及び、内金二六一万一三〇二円に対する訴状送達の日の翌日である平成四年一月一七日から、内金七五一六円に対する前記準備書面送達の日の後である平成六年七月一三日から各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被控訴人両名は、それぞれ一五万七一八八円及びこれに対する右平成六年七月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

八  同二一丁裏五行目の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「(7) 控訴人の昭和六一年一〇月一六日から平成六年三月三一日までの売上高及びその経常利益率は、本判決添付別紙(2)の利益率(%)欄記載のとおりである(乙七三ないし八〇)。

そこで、控訴人主張の同別紙(2)記載の本件金型の販売数量に、本件金型の単価一万七五〇〇円を乗じた売上高に、年度欄記載の各期間に対応する各利益率を乗じた利益額は、利益額(千円)欄記載のとおり、

期間 純利益額

昭和六一年一〇月~六二年九月 四月八〇〇〇円

昭和六一年一〇月~六三年九月 六万四〇〇〇円

昭和六三年一〇月~平成元年九月 九万〇〇〇〇円

平成元年一〇月~三年三月 四万四〇〇〇円

平成三年四月~三年七月 四〇〇〇円

平成三年八月~五年九月 〇円

以上合計二五万円である。

したがって、仮に、控訴人に損害賠償義務が認められる場合でも、被控訴人らの損害は、控訴人の得た利益である右二五万円の限度で生じるにすぎないものである。」

理由

一  当裁判所も、被控訴人アマダの本訴請求は、控訴人に対し、金一五一万二九一二円及び内金一五〇万八八一七円に対する平成四年一月一七日から、内金四〇九五円に対する平成六年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の、また、被控訴人らの本訴請求は、控訴人に対し、各金九万三六七三円及びこれに対する平成六年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の、各支払を命ずる限度で認容し、その余の本訴請求及び控訴人の反訴請求はいずれも失当として棄却すべきであると判断する。(なお、原判決主文第一、第二項に係る被控訴人らの請求は、本件実用新案権が平成七年一月三一日の経過により存続期間が満了し消滅したので、取り下げられた。)

二  その理由は、以下に訂正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由第三 争点に対する判断」(原判決三四丁表二行目から同丁裏一行目までを除く。)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二四丁表四行目から九行目までを、次のとおり改める。

「1 控訴人は、控訴人の代表者である大川が控訴人を設立する前の昭和五二年初めころ、原判決別紙図面1ないし3の下向バーリングの設計、製作を開始し(同図面2、3の製品は本件考案の技術的範囲に属する十字溝バーリングである。)、具体的には、大川が、<1>昭和五二年二月一二日に株式会社くろがね工作所に、<2>昭和五三年八月一日に日伸工業株式会社に、それぞれ十字溝下向バーリングを販売したから、大川及び同人から権利義務を承継した控訴人は、本件実用新案について先使用権を有する旨主張する。」

2  同二七丁表一行目から三行目までを、次のとおり改める。

「3 右に敷衍すれば、次のとおりである。

(一)  昭和五〇年ころから本件考案の出願日である昭和五五年一月三一日までの間の下向バーリング金型に関する技術水準について検討すると、証拠(甲二六ないし二八)によれば、本件考案の審査過程において、審査官が本件考案に対する公知技術として引用したものは、前示遠藤が考案した三本ピン型に係る実公昭五三-一三八八号公報(甲二四)のみであり、また、右期間において発行されたバーリング金型に関する公開特許公報及び公開実用新案公報には、下向バーリング金型においてエジェクタープレートの頂面にガイド溝を設けることを開示もしくは示唆する先行技術はないことが認められる。

(二)  また、証拠(甲三、四、一三、一七ないし一九、乙四二ないし四八)によれば、控訴人(会社設立前の大川の個人企業の時代を含む。)が発行した金型のカタログや価格表などにおいては、昭和五三年ころ以降昭和五六年ころに作成された価格表など(甲一七、一九・価格表No.3ないしNo.8、乙四三、四四)には、上向バーリング金型は掲載されているのに、下向バーリング金型は掲載されておらず、下向バーリング金型が掲載された(甲一九価格表No.13、乙四五)のは昭和五七年以降、十字溝下向バーリング金型が掲載された(甲三、四、一三、一九・価格表No.14、18、19、20)のは昭和五八年以降であると推認され、十字溝下向バーリング金型が掲載された最も早いものと認められる価格表(甲一三、一九・価格表No.14)には、前記三本ピン型のものが十字溝のものと並べて掲載してあることが認められ、これによれば、控訴人において十字溝下向バーリングが製品として確立され、正式に商品として販売し始めた時期は、早くとも昭和五七年ころと推認するほかはないというべきである。

(三)  そして、原審における控訴人代表者尋問(第一回)において、同人は、11/4インチ(インチクォーター)サイズの十字溝下向バーリングのダイを作成したのは被控訴人アマダの方が早く、昭和五六、七年ころに被控訴人アマダの同ダイ組立図(甲一〇)を顧客から示され、控訴人において11/4インチサイズの十字溝下向バーリングの金型を製作するについて、この図面を参照したことがあることを認める旨の供述をしており、この供述は、本件考案の出願前に十字溝下向バーリングの金型を製造していたとする控訴人にとって有利とはいえないものであるから、信用するに足りるものというべきである。

この点につき、控訴人は、本件考案の十字溝下向バーリング金型の製作に先立って、控訴人は一本溝の下向バーリング金型を製作し納入していたのであり、右一本溝下向バーリング金型は、設計思想において、十字溝下向バーリング金型と本質的に異なるところはなく、その延長線上において容易に導きうる製品であること、顧客が操作する場合にも、金型の基礎編をマスターしておれば、十分操作が可能であって、特別のソフトを必要としないものである旨、ただ、一本溝から十字溝への製作経過で、11/4インチサイズの十字溝については、当時技術的に難があって、2インチサイズのものから着手した旨主張する。

この一本溝下向バーリング金型の製造販売についての控訴人の主張立証をみると、控訴人は、昭和五二年二月一七日と昭和五三年二月一七日の二回にわたり、松下冷機株式会社冷凍機事業部に「11/4インチ下向バーリング一セット」を(乙八、九、三八)、昭和五三年七月二〇日、日伸工業株式会社に「NCT2”下向20φバーリング一セット」を(乙一一の一・二、三六、八一ないし八三、検乙四)、昭和五四年二月二一日、中央鉄工株式会社に「11/4インチM5下向一発バーリング一セット」を(乙一六の一・二、一七、三二、三七、検乙二)、同年五月九日、株式会社くろがね工作所に「41/2インチ2連下向バーリングダイ一セット」を(乙一八ないし二〇、三五)を、各製造販売したというのである。すなわち、控訴人は、一本溝下向バーリング金型の製造については、すでに昭和五二年二月一七日の段階で11/4インチサイズのものが製造でき、その後、2インチサイズ以上のものを製造していたことになるが、ダイのエジェクタープレートの頂面に溝を設けるのは三井工作製MSG-200M昭和五二年製などの工作機で可能であると認められ(乙八七)、この場合に、11/4インチサイズのものと2インチサイズ以上のものとで、その加工の困難性に特段の差異があるとは認められない。また、一本溝と十字溝とでは、確かに溝を一本設けるか一本の溝と直角にもう一本の溝を設けるかの差異があり、正確に溝を設ける必要性は十字溝の方が大きいとはいえるものの、その加工そのものの困難性に特段の差異があることは本件証拠上認められない。そうすると、控訴人が主張するように、仮に昭和五二年二月一二日の段階で、2インチサイズの十字溝下向バーリング金型の製造ができ(乙六、三五、三九、七一、検乙一)、昭和五三年八月一日当時にも、2インチサイズの十字溝下向バーリング金型の製造ができていた(乙一二、三六、八一ないし八三)とすれば、前示控訴人代表者が供述するところの2インチサイズの十字溝は加工できたが、11/4インチサイズの十字溝は被控訴人アマダの図面を参照するまで製造できなかった技術的困難性は何かが問われなければならないが、これを合理的に解明できる理由は、本件証拠上認めることができない。

(四)  大川が昭和五二年二月一二日株式会社くろがね工作所に対し販売したとする十字溝下向バーリング金型の納品書であると控訴人が主張する乙第六号証には、「NCT金型2”オールロックバー一セット」と記載されおり、これが本件下向バーリング金型とは全く関係がない製品名を示すものであること、一方、同じく大川がくろがね工作所に納入した製品を示す昭和五三年五月一一日付け納品書(乙一〇)記載の「2”オールロックバー改造分(キー2ヶ所)」、同年一〇月一四日付け納品書(乙一三、一四)記載の「2”オールロックバー絞り型」は、その表記とおりの製品であって本件下向バーリング金型に関係のない製品であることは、控訴人も自認するところである。

この点について、証人田中公夫の証言並びに原審及び当審における控訴人代表者尋問の結果中には、株式会社くろがね工作所の田中公夫が担当する部門の「オールロックバー」の予算が余り、その余った予算で十字溝下向バーリング金型を製造させたため、内部処理上、右のように記載された旨の供述部分があるが、同じ「オールロックバー」の記載について、右乙第六号証の納品書の記載のみを他と別異に解する理由としては、これをもって合理的な説明とは解し難く、右の供述部分はたやすく採用することができない。

また、控訴人主張の、大川が昭和五三年八月一日、日伸工業株式会社に対し販売したとする納品書(乙一二)には、「2”6.5×8.5下向バーリング」との記載があるのみであり、これが十字溝のある製品であることまでは示されていない。

(五)  その他、本件全証拠によっても、大川が十字溝バーリングを開発し、本件金型を製造、販売した時期が控訴人主張の昭和五二年二月もしくは昭和五三年八月ころであることを認定するには、いまだ充分でないといわなければならない。

4 以上の事実を総合して考察すると、大川ないし控訴人がその主張の十字溝下向バーリングを独自に考案し、本件考案の出願以前から製造販売していた事実を認めることはできず、また、本件考案の出願の際、十字溝下向バーリングの製造販売の事業をしていたとも事業の準備をしていたとも認められないから、控訴人の先使用権の主張は、これを採用することができない。」

3  同三〇丁表一二行目の「第一二条」の次に「(平成五年法律第二六号による改正前のもの)」を加える。

4  同三二丁表三行目の「とおりで」の次に「あり、その下型のみのロング及びショートダイアセンブリーがその上型を含むロング及びショートセットアセンブリーとは別に独立の商品として販売されているので」を加え、同六行目の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「したがって、上型と下型のセット価格を前提とする被控訴人らの損害額の主張は採用できない。」

5  同三三丁表五行目の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「この点に関して、控訴人は、昭和六一年一〇月一六日から平成六年三月三一日までの売上高及びその経常利益率は本判決添付別紙(2)のとおりであり、これに基づいて算定した利益額は合計二五万円であるから、これをもって損害額の限度とすべきである旨主張する。

しかし、控訴人の主張は、単に控訴人の各期の決算報告書に基づいた控訴人会社全体の製品についての利益率を主張するものにすぎないうえ、特別損失である為替差損額を経費として利益率を計算する(乙七七)等、本件金型の販売についての利益率を具体的に認定するうえで合理的でない点があるというべきであるから、右控訴人の経常利益率の認定を左右するものとはならない。」

三  よって、被控訴人アマダは、控訴人に対し、本件実用新案権の侵害に対する損害賠償として、一五一万二九一二円及びうち一五〇万八八一七円に対する右(1)ないし(5)の期間の終了日の後である平成四年一月一七日から、うち四〇九五円に対する右(6)、(7)の期間の終了日の後である平成六年七月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、被控訴人アマダ及び同アマダメトレックスは、控訴人に対し、本件実用新案権の侵害に対する損害賠償として、それぞれ九万三六七三円及びこれに対する右同平成六年七月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができることになるから、被控訴人らの本訴請求はその限度で正当というべきである。

四  以上によれば、本訴請求及び反訴請求についての原判決の判断は正当であるから、控訴人の本件控訴及び被控訴人らの本件附帯控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

別紙(1)

<省略>

別紙(2)

下向きバーリング販売数量及び金額

(金額単位:千円)

(注)セット単価は下型のみの価格による

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例